AIとCFD技術で室内環境を可視化・予測するデジタルツイン「スマート・エア・ツイン」が開発される

新しいデジタルツイン「スマート・エア・ツイン」の誕生

新菱冷熱工業とアジアクエストは、建物の中の環境を詳しく知り、未来の状況を予測できる新しいシステム「AI-CFD環境予測デジタルツイン」、通称「スマート・エア・ツイン」を開発しました。このシステムは、建物の設計情報をデジタルで管理するBIMという技術と、AIを使ったCFD(数値流体力学)という計算方法を組み合わせて作られています。

SHINRYO AQ AsiaQuestのロゴ

開発の背景と目的

新菱冷熱工業は、建設業界のデジタル化(建設DX)を進め、環境に優しい社会に貢献することを目指しています。一方、アジアクエストは、AIやIoT、クラウドなどの新しい技術を使って、企業のデジタル変革をサポートする会社です。

両社は、新菱冷熱工業のイノベーションハブ(研究施設)にある空調設備やIoT機器と、アジアクエストのAI技術を合わせることで、建物内の環境を見える化し、予測できるデジタルツインの構築に取り組みました。

スマート・エア・ツインの主な特長

スマート・エア・ツインは、建物の内部から外の空気まで、空気の流れを3Dのコンピューター空間で再現します。これまでのCFD解析は部屋ごとに行われることが多かったのですが、このシステムでは建物全体を対象にできます。

これにより、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)という、使うエネルギーを実質ゼロにする建物の実現に向けて、外の空気を取り入れる方法と空調の最適な組み合わせを考える際に役立ちます。快適な空間を保ちながら、エネルギーの節約も同時に目指せるのです。

1. 室内環境の見える化

このシステムには、以下のような機能があります。

  • BIMデータを使って建物の形を3Dで表示し、点群データで内装もリアルに表現します。

  • センサーで測った温度、CO₂濃度、PMV(人が感じる温かさや冷たさの指標)などの空間での分布を表示します。

  • CFD解析の結果に基づいて、温度や空気の流れをアニメーションで見ることができます。

  • ビーコン(電波を発信する小さな機器)を使って、部屋にいる人の位置を表示します。

新菱イノベーションハブの内部空間を、点群データによるリアルな3Dモデルと、空気の流れを可視化したシミュレーション画面

2. AI-CFDによる高速な環境予測

AI-CFDという技術を使うと、季節や時間、空調の条件などを指定するだけで、短時間で解析結果を出し、表示できます。約2,500件のCFD解析データを学習させたCNN(畳み込みニューラル・ネットワーク)というAIモデルを使うことで、早く、そして柔軟に環境を予測できます。

このAI-CFDは、通常のCFD解析と比べて、解析にかかる時間を200分の1以下に短くすることができます。これにより、実際に試すのが難しい条件でも、建物内の環境を再現し、より良い運用方法や設備の更新を考える手助けとなります。

今後の展望

スマート・エア・ツインは、現在、新菱冷熱工業のイノベーションハブで、様々な環境の変化を見える化するために使われています。今後は、AI-CFDの予測がどれくらい正確かをさらに検証し、より高度な予測ができるようにしていく予定です。

また、空調を自動で動かすシステムと連携を強めることで、解析結果を実際の空調設備に反映させ、環境を最適に保ち、自動で制御するシステムへと発展させることを目指しています。

イノベーションハブ本館での活用

新菱冷熱工業のイノベーションハブ本館は、エネルギー消費を実質ゼロにするZEBを目指して設計されました。ここでは、自然に近い環境から空調で管理された環境まで、多様な温度や湿度、光の環境を組み合わせた「環境グラデーション」が実現されています。

オフィスビルにおける多様な空調システムと空間デザインの概念図

本館では、CFD技術を使って、センサー情報や天気予報から未来の室内環境を予測し、PMV(人が感じる温冷感の指標)に基づいて空調を制御する「CFD連携PMV制御」が開発・運用されています。この技術は、快適な室内環境と省エネルギーを両立させることを目指していますが、解析には多くの計算が必要なため、効率化が課題でした。今回のAI-CFDは、この課題を解決する手段として期待されています。

気象予報とセンサー情報を中央監視に取り込み、熱負荷予測とCFD解析で室内環境を予測し、PMVが最適になるよう先回り制御するフロー

関連情報

会社概要

新菱冷熱工業株式会社
1956年創業の総合エンジニアリング企業です。空気調和、電気設備、給排水衛生などの分野で国内外のプロジェクトを手掛けています。

アジアクエスト株式会社
AI技術を核に、AIX(AIトランスフォーメーション)やDXの実現を支援するAIインテグレーターです。コンサルティングから開発・運用まで一貫してサポートしています。

用語解説

  • CFD (Computational Fluid Dynamics): 数値流体力学の略。コンピューターで空気や水の流れを計算し、予測する技術です。

  • BIM (Building Information Modeling): ビルディング・インフォメーション・モデリングの略。建物の情報を3Dモデルとして作成し、設計から施工、維持管理まで一貫して活用する手法です。

  • CNN (Convolutional Neural Network): 畳み込みニューラル・ネットワークの略。画像認識などに使われるAI(人工知能)の技術の一つです。

  • PMV (Predicted Mean Vote): 予想平均温冷感申告の略。人が感じる温かさや冷たさを数値で表した指標で、快適性を評価する際に使われます。

  • ZEB (Zero Energy Building): ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略。年間のエネルギー消費量を実質ゼロにする建物のことです。

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