自分で学び成長するAIのチームが業務を効率化する新技術を開発
AIがチームを組んで仕事を行い、日々の結果や人からのアドバイス、さらには会社のルール変更など、さまざまな情報から安全に学び続ける「自己進化マルチAIエージェント技術」が開発されました。
会社では、法律や制度の変更、商品の仕様変更、現場のルール変更などが常に発生します。特に、たくさんの業務資料や設計書がある業界では、どの情報を参考にし、何を優先して判断するかは、これまで経験豊富なベテラン社員の知識に頼っていました。また、AIを最新の状況に合わせるには、専門家が指示の出し方や情報の探し方などを調整し続ける必要がありました。
この課題を解決するため、AIが自分の経験を確かめながら安全に学習する技術が開発されました。
自己進化マルチAIエージェント技術の仕組み
この技術の大きな特徴は、AIエージェントが仕事をしながら、成功した理由や失敗した理由を整理することです。そして、次に活かすべき知識や行動のコツを見つけ出し、改善案を作ります。この改善案はすぐに記憶されるのではなく、品質や安全性が確認された上で、本当に役立つものだけが学習されます。これにより、これまで専門家が続けていたAIへの指示の調整などの作業を、AI自身が行えるようになります。
AIを会社のシステム内に置くことで、業務の中で生まれる個別のルールや判断基準にも継続的に適応し、人と環境と一緒に成長する業務の土台が作られます。

業務特化型大規模言語モデル「Takane」の自動強化
この技術は、業務に特化した大規模言語モデル(LLM)である「Takane」を作る過程全体に適用できます。これまで専門家が担当していたデータの選び方、学習条件の調整、評価、改善といった一連の作業を、AIのチームが自動的に行い、最適な状態にしていきます。AIエージェントは、業務の結果や評価をもとに改善案を作り、それを試した上で効果のあるものだけを取り入れることで、モデルの性能を継続的に高めます。
これにより、AIが自分で進化し続ける仕組みが実現され、専門家が常に調整する必要がなくなります。

製造、医療、金融、行政など、さまざまな分野で「Takane」を自動的に強化し、運用を通して改善したところ、業務に特化する前と比べて平均で28ポイントも精度が上がりました。さらに、賢くなったAIは、一般的なAIモデルと比べても高い精度を示しており、それぞれの業務に合わせたAIがとても有効であることが確認されています。たとえば、医療分野では、診療記録や検査結果などの整理されていないデータから、病気の名前や進行度、治療の方針などを決まった形で取り出す作業において、この技術を使うことで、業務に合った情報抽出や整理が可能になりました。
これは、単に答えの精度が上がるだけでなく、これまで専門知識に基づいた設計や調整が必要だった、業務に特化した大規模言語モデルを作る過程を、AIのチームが代わりに行い、運用の中で継続的に最適な状態にできることを示しています。これにより、企業はAIの専門家がいなくても、自社の業務に合ったAIを短期間で作り、業務の変化に合わせて継続的に改善できるようになります。

大規模業務システムの設計書検索への応用
この技術は、大中規模病院向けの電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」や、地方公共団体向けの業務ソリューション「MICJET住民記録」の設計書を探すAIにも応用されました。法律や制度の変更があったときに、ソフトウェアのどこを直せばよいかを見つけるには、これまで制度や業務、システムの構造に詳しいベテラン社員の力が必要でした。
この技術を使うと、AIエージェントが過去の検索結果や失敗例、人の修正内容を学習し、探し方を広げたり、関連する資料を見つける方法を自分で改善するようになりました。これにより、これまで専門家が試行錯誤して作っていた検索の仕組みを自動化でき、学習や改善にかかる手間を減らしながら、精度も上がることが確認されています。
これは、AIエージェントがただ検索を繰り返すだけでなく、業務を通して関連する資料まで確認したり、一見関係なさそうな文書でも同じ業務分野であれば候補から外さないといった、ベテラン社員の検索のコツをつかみ、次の業務に活かせるようになったことを示しています。今後、これらの知識と技術は、設計や開発の過程全体をより高度で効率的なものにするために活用されていくでしょう。
今後の展開
この技術は、専用のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi Enterprise AI Factory」に組み込まれ、業務に特化したAIを自社で作ったり、自動で運用したりするための中心的な技術として提供される予定です。また、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」の先進的なAI技術の一つとして、専門知識と継続的な改善が必要な幅広い分野での活用が進められます。
さらに、カーネギーメロン大学のGraham Neubig准教授、Tim Dettmers助教との共同研究の成果と、開発された生成AI再構成技術を組み合わせることで、自己進化マルチAIエージェントシステムをより少ないメモリと電力で動かす技術の開発が進められています。これにより、クラウド環境だけでなく、情報がとても大切な現場のシステムや、スマホなどの小さな機器でも、業務を学び続けるAIチームが使えるようになることを目指しています。
クラウドだけでなく、会社のシステムや小さな機器でも継続的に学習できる、情報が外部に漏れる心配のない独自のAI(ソブリンAI)の実現を目指しています。現場で起きた失敗や人の指示、環境の変化をAIがその場で学び、安全に次の作業に活かすことで、AIを現場と一緒に成長する知的な土台へと進化させます。これにより、専門家不足や制度改正への対応、特定の人の知識に頼りがちな業務の引き継ぎ、現場作業の高度化といった社会の課題を解決し、人とAIが互いに学び合いながら産業全体を進化させる未来が作られていくことでしょう。


