地方自治体インフラAXサミット2026開催報告:ベテランの知恵とAIで未来のインフラを築く

地方自治体インフラAXサミット 2026

2026年2月18日、Tokyo Innovation Baseで「地方自治体インフラAXサミット 2026」が開催されました。このサミットは、宇宙ベンチャーの株式会社天地人が運営する実行委員会が主催し、267名が参加しました。人口が減り、インフラを管理する人が不足する中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)とAI(人工知能)を活用してどのようにインフラを支えていくか、という大切なテーマについて話し合われました。

オープニング:人口減少社会での新たな目標

小林史明氏によるオープニングメッセージ

サミットは、自由民主党衆議院議員の小林史明氏によるビデオメッセージから始まりました。小林氏は、2040年には働く人が今より2割減るという「8がけ社会」という言葉を使い、この現実を前向きに捉えることの重要性を強調しました。10人でやっていた仕事を8人でできるようになれば、一人ひとりが豊かになれると述べ、社会全体を変えていく姿勢を示しました。

また、防災やインフラが国の重要な戦略分野に位置づけられたことに触れ、これが新しい産業を生み出す機会でもあると説明しました。テクノロジー活用のためのルールを見直したり、国と地方の役割を整理したりする方針も示されました。さらに、国と民間が協力して新しい技術を社会に取り入れ、日本で成功したモデルを世界に広げていく「良い循環」を作りたいと語り、このサミットがその第一歩であると述べました。

基調講演1:自治体業務のデジタル化と効率化

吉田宏平氏による基調講演

日本ディープラーニング協会専務理事の岡田隆太郎氏が司会を務め、内閣官房デジタル行財政改革会議事務局次長の吉田宏平氏が基調講演を行いました。吉田氏は、自治体職員が減り続けていることや、DX担当者が少ない自治体が多いという厳しい現状を数字で示しました。そして、1741もの自治体がそれぞれバラバラのシステムを使っている現状は続けられないとし、「標準化・共通化・共同調達」という3つの柱で、サービスを「利用する」形に変わることが必要だと訴えました。

基調講演2:インフラを「コスト」から「資産」へ

小林正典氏、太田稔彦市長、草地博昭市長による基調講演

続く基調講演では、国土交通省の小林正典氏、豊田市の太田稔彦市長、磐田市の草地博昭市長が登壇しました。小林氏は、インフラを単なる費用ではなく「資産」として捉える「インフラ経営」の考え方や、まとめて管理する「群マネジメント」、民間との協力(PPP/PFI)の重要性を説明しました。その中で、天地人が衛星データを使って水道管の損傷リスクを把握するなどの支援を行っていることにも触れ、民間企業との連携がますます重要になると述べました。

豊田市の太田市長は、3700kmもの水道管路の維持管理に対する危機感を語り、産官学連携で80件以上の実証実験を進めてきた経験を紹介しました。磐田市の草地市長は、「市民の笑顔を目標にした官民協力」というユニークな視点で講演し、天地人の「宇宙水道局」を導入した結果、調査区域の40%で漏水を発見し、導入前の6倍の発見率を達成したことを報告し、注目を集めました。

特別講演:AI活用でベテランの知恵を未来へ

貝戸清之教授による特別講演

大阪大学大学院の貝戸清之教授は、「AI嫌いな大学教授」と自己紹介しながらも、AIが万能ではないこと、そしてどこで使うべきかを見極めることが大切だと述べました。講演では、データと現場の経験をどのように結びつけるかについて深く議論されました。

貝戸教授は、統計学に基づいた劣化予測の方法を解説し、大阪市の下水道管のデータ分析から、一般的に50年とされる寿命が実際には平均85.9年である可能性を示しました。そして、「現場の専門家が頭の中で考えてきた経験や勘をデータで示すことが、次の世代に残せる資産にするための第一歩だ」と訴えました。AIの活用については、「時間が経つと劣化するものは統計モデルで十分。AIは、原因がはっきりしない自然の斜面や地下の構造物などにこそ使うべきだ」と述べ、技術の使い分けの重要性を強調しました。

セッション1:AIが受け継ぐ水道現場の「経験と勘」

水道事業担当者と天地人COOによるセッション

このセッションでは、全国で先進的な取り組みを進める4つの市の水道事業担当者と、水道DXツール「宇宙水道局」を提供する天地人COOが登壇し、現場での技術継承の課題について語り合いました。

会津若松市の遠藤氏は、若手の意見を取り入れやすい職場の雰囲気を作るのに4〜5年かかった経験を紹介。佐賀市の姉川氏は、「水道DXワークショップ」を通じてベテランの持つ知識を記録し、独自の管路劣化診断を作っていると報告しました。磐田市の松尾氏は、市民に親しみを持ってもらうための「水道戦隊ウォーター」という広報活動を紹介しました。都城市の山﨑氏は、「宇宙水道局」の導入後、漏水の可能性が高い場所が色分けで分かりやすくなったことで、「調査員のやる気と効率が大きく上がった」と現場での手応えを語りました。

セッション2:道路を「コスト」から「価値」へ

道路インフラに関するセッション

Session 2では、道路インフラをテーマに「道路の価値とは何か」という問いから議論が始まりました。元国土交通省の西尾崇氏は、道路の価値を「スムーズさ」と「安全性」の2つで整理しました。岡崎市の新川寛成氏は、職員や予算が減る中でサービスレベルを維持することの難しさを現場の視点から語りました。

課題解決策として、株式会社アイシンの手嶌亨氏が取り組む「みちログ」が紹介されました。これは、ドライブレコーダーの映像をAIで解析し、路面の異常による事故をゼロにしたという成果が報告されました。東京電機大学の松井加奈絵教授は、道路整備が不動産の価値上昇につながり、地域経済に良い影響を与えるという視点を加え、異なるデータを組み合わせることでこれまで見えなかった価値を可視化できると提案しました。異常の発見はAIが担当し、最終的な政策判断は人間が行うという役割分担の共通認識ができた一方で、責任の所在についての議論も率直に交わされました。

セッション3:平時のDXが有事の命を守る

防災・維持管理に関するセッション

サミットの最後を飾るSession 3では、防災と維持管理の現場で「フェーズフリー」(普段使いできるものが災害時にも役立つ)を実践する4名が登壇しました。

玉名市の木下義昭氏は、橋の点検で約20億円の費用削減と、問題が起こる前に修理する予防保全への完全移行を実現した経験を紹介し、日頃の積み重ねが災害時の対応力に直結すると述べました。田辺市の田上健太郎氏は、ドローンを使って現場を3次元データ化する作業を自分たちで行い、防災だけでなく様々な分野で活用している例を共有。「普段からデジタルツイン(現実の世界を仮想空間に再現したもの)を作っておくことが、被災した人を早く助けることにつながる」と語りました。福井県の朝井範仁氏は、県内1800kmすべての川をドローンで撮影し、災害時に自動で状況を確認できる防災体制を作った取り組みを紹介しました。

スペクティの村上建治郎氏は、民間企業側の視点から「普段使いできない仕組みは、災害時にも使えない」と述べ、役所の中の縦割り構造がフェーズフリーの実現を妨げる問題点も指摘しました。各登壇者の話を通じて、熱意ある担当者の存在と、小さな成功を積み重ねる戦略が、組織の壁を乗り越える鍵であるという示唆でセッションは締めくくられました。

各プログラムの詳しい報告は、後日公開される予定です。

来場者アンケート結果:参加者の関心事

サミット終了後に実施されたアンケートでは、今後取り上げてほしいテーマとして「インフラ老朽化対策の最新技術」が66.0%と最も多くの支持を集めました。次いで、「IoT/センサー技術の活用事例」(43.4%)、「自治体間の連携・広域的な取り組み」(43.4%)、「災害に強いインフラ構築とレジリエンス強化」(37.7%)、「台帳DX/データ標準化」(34.0%)が続きました。

技術そのものへの関心だけでなく、自治体同士の協力やデータの標準化といった、実際の運用や制度設計に関するテーマへの関心も高いことが分かりました。これは、技術を紹介するだけでなく、実際にどのように導入していくかという具体的な議論が期待されていることを示しています。(有効回答数:53件、集計期間:2026/02/19〜25、実施形式:WEB上)

アンケートに回答した人の業種は、製造業が16.7%で最も多く、公共・行政およびサービス・専門職がそれぞれ12.5%、水道インフラ関連および道路インフラ関連が各8.3%でした。宇宙産業、モビリティ・輸送、不動産、教育機関など、幅広い分野からの参加があり、多くの分野の人が集まっていたことが分かります。

実務の最前線で働く多くの人々が集まったことは、このサミットが単なる情報収集の場ではなく、具体的な導入や協力を見据えた話し合いの場として機能したことを示しています。

イベント概要と実行委員会について

「地方自治体インフラAXサミット 2026」は、以下の通り開催されました。

  • 開催日時: 2026年2月18日(水)13:00~20:00

  • 場所: Tokyo Innovation Base (TIB) 1階 SQUARE-1
    〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-8-3

  • 主催: 地方自治体インフラAXサミット2026 実行委員会

  • 運営: 株式会社天地人

  • 来場者: 267名(参加申し込み:348名)

  • 公式サイト: https://ax2026.lginfra-summit.com/

地方自治体インフラAXサミット2026 実行委員会は、限られた資源の中で持続可能なインフラ管理を実現することを目的としています。行政機関、民間企業、大学・研究機関が協力し、ベテランの経験と勘をAIで次の世代に引き継げる資産に変えることで、地方自治体インフラの未来を切り開くことを目指しています。

株式会社天地人に関する情報はこちらです。

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