日立が「AIデブリーフィング技術」を開発、現場対応力と知識深化を支援
株式会社日立製作所は、現場で働く人々とAI、ロボットが協力して得た経験を、会社全体で役立てるための新しい技術「AIデブリーフィング(振り返り)技術」を開発しました。この技術は、現場での急な出来事に対して、熟練者の経験や判断に頼りがちな状況を改善し、組織全体の対応力を高めることを目指しています。
AIが現場の「なぜ」を解き明かす
この「AIデブリーフィング技術」は、現場で作業した人が「なぜその判断をしたのか」という疑問をきっかけに、複数のAIと話し合いながら、判断に至った理由や背景を整理するものです。これにより、作業者は自分の言葉で判断の根拠を説明できるようになり、主体的に考える力や、学んだことを他の場面に応用する力が向上します。さらに、個人の経験が組織全体の貴重な知識として蓄積され、共有されるようになります。
この技術は、日立が開発した次世代AIエージェント「Frontline Coordinator – Naivy(ナイヴィー)」を中心とした「フィジカルAIオーケストレーションシステム」に組み込まれます。これにより、作業の安全性や効率性が向上するだけでなく、予期せぬ出来事にも対応できる「現場対応力」の強化が期待されます。現場で集まるデータと専門知識を合わせて、経験を知識としてしっかり定着させる「知識深化支援」と、作業をスムーズに進める「タスク実行支援」が一体となって提供され、人とAIが共に成長する新しい価値を生み出します。

日立は今後、お客様との実証実験を通じて、この技術やシステムの有効性を確認し、適用範囲を広げていく予定です。Naivyは、産業分野向けの次世代ソリューション群「HMAX Industry」の主要な技術の一つとして展開され、産業現場や電力・鉄道などの社会インフラの持続的な運用と、人材育成・技能継承の変革に貢献していきます。
開発の背景にある課題
社会インフラや産業の現場では、働く人が減ったり、経験豊富な熟練者が不足したりすることが大きな課題となっています。そのため、現場での対応力を維持し、技術や知識を次の世代に伝えることが急務です。
日立はこれまで、Naivyを開発し、現場の状況に応じた分かりやすいナビゲーションなどで、経験の少ない作業者の負担を減らし、仕事の効率を高める取り組みを進めてきました。また、Naivyを使ったリスク危険予知支援システムにより、現場の安全性を高めることにも取り組んでいます。
しかし、AIやロボットが現場で活躍するほど、作業者がなぜその作業をするのか、その判断の根拠を十分に理解しないまま仕事を進めてしまう危険性がありました。急なトラブルや例外的な状況に柔軟に対応するためには、ただ作業を実行するだけでなく、作業の手順や判断の背景にある「なぜ」を理解し、個人の経験を組織全体の知識として蓄積し、活用できる仕組みが必要でした。
フィジカルAIオーケストレーションシステムとAIデブリーフィング技術の特長
日立は、このような課題を解決するため、生産性や安全性、現場対応力の向上を支える「フィジカルAIオーケストレーションシステム」を構築しました。このシステムは、Naivyを中核として、タスク実行支援と知識深化支援を一体で提供します。特に、知識深化支援を支える主要な技術が、作業後の学びを整理し、定着させる「AIデブリーフィング技術」です。この技術には、以下の特長があります。
1. 作業者・AI・ロボットをつなぐ現場オーケストレーション
Naivyに集められた現場の専門知識を活用し、複数のロボットやAIのタスク実行を連携させます。さらに、日立が長年培ってきた現場の知識に基づき、施設の温度異常や機器の故障といった物理的な現象の因果関係をデジタル上で整理し、分かりやすく「見える化」します。そして、作業者、AI、ロボットに最も適切な形で情報を提供することで、現場作業が確実に行われるようサポートします。
2. AIデブリーフィング技術による判断根拠の理解と知識定着の支援
この技術では、「ファシリテーターAI」「ピアAI(同僚役)」「エキスパートAI」という、それぞれ異なる役割を持つ複数のAIが協力して、作業者の「なぜ」という疑問から振り返りを進めます。作業のデータや手順と連動しながら、判断に至った理由や基本的な原理原則を整理し、作業者が自分の言葉で説明できる状態になるようサポートします。これにより、経験が確かな知識として定着し、急なトラブルや例外的な状況にも応用できる現場対応力の向上につながります。
社内で行われた検証では、エアコンの保守業務を想定したテストで、従来のAIとの1対1の対話形式と比べて、知識定着テストの点数が約70%向上したことが確認されました。また、医療シミュレーションの振り返り評価方法であるDASH(Debriefing Assessment for Simulation in Healthcare)やアンケートの結果からも、学びの質やAIとの対話への集中度(没入度)が改善していることが分かりました。

3. 人とAI・ロボットが共に進化するタスク実行と知識深化の循環
作業の実行と振り返りから得られた学びは、個人の経験にとどまらず、組織全体の知識として蓄積され、AIによる支援にも反映されます。蓄積された知識は、次の作業支援や教育に活用することができます。このように、人とAI、ロボットが作業と学習を繰り返しながら現場対応力を高めていく「知識深化」の循環を実現し、技術や知識の継承、そして持続可能な現場運用に貢献します。
今後の展望
日立は今後、製造業、建設業、電力など、幅広い現場業務を担うお客様やパートナー企業と協力し、単に自動化や効率化にとどまらない「人とAIの共進化」による新しい現場の価値創造を目指します。具体的には、作業者の習熟度や作業内容、進捗状況に合わせて、AIの役割や支援のレベルを自動で調整する仕組みや、さまざまな対話機能の強化を進めていきます。
また、フィジカルAI技術や、日立が提唱する「Integrated World Infrastructure Model (IWIM)」などを組み合わせることで、現場で得た経験を知識に変え、活用する範囲を広げていきます。日立は、Naivyを「HMAX Industry」のソリューションとして展開し、今回開発した技術はその主要な技術の一つとして位置づけます。これにより、産業現場や社会インフラの持続可能な運用、人材育成、技能継承の変革に貢献していきます。
この成果は、2026年5月20日に開催される「Hitachi Physical AI Day」で展示される予定です。


