「匠の技」をデジタルで自動化する「アドオンモジュール」が登場 – 複雑な3D形状へのレーザー肉盛り溶接を実現

熟練工の技術をデジタルで再現

ALPHA LASER JAPAN株式会社と株式会社データ・デザインは、共同でレーザー肉盛り溶接の自動化ソフトウェア「ALPHA LASER ポストアドオンモジュール」を開発しました。この製品は、2026年1月から販売されます。

これまで、金型などの複雑な3D形状(凹凸面や曲面)への肉盛り溶接は、熟練した職人の手作業に頼るしかありませんでした。しかし、この新しいソフトウェアを使うことで、CAMソフト上で溶接作業を自動でプログラムできるようになります。これにより、製造業で深刻になっている人手不足や技術を受け継ぐ課題を解決し、日本のものづくりの品質を保ち、さらに良くすることを目指します。

3D曲面を自動でレーザー肉盛り溶接

開発のきっかけ:3D自動化の壁を乗り越える

製造現場では、特に金型補修の分野で、熟練した職人が減り、高齢化が進んでいます。平面(2D)での自動化は進んでいますが、複雑な曲面(3D)への溶接は技術的に難しく、多くの現場で自動化を諦めていました。

転機となったのは、2025年4月に東京で開催された「INTERMOLD 2025」でした。ALPHA LASER JAPANのグループ会社である愛知溶業株式会社の代表と、データ・デザインの担当者が技術的な話し合いを行いました。データ・デザインは、ALPHA LASER製の溶接機が高い操作性と出力を備えていることを分析し、「この性能があれば、ソフトウェアで制御して課題を解決できる」と確信しました。

その後、何度も試行錯誤を重ねた結果、ALPHA LASER製溶接機の高い能力と、データ・デザインの高度な3Dデジタル技術がうまく組み合わさり、実用的な自動溶接の動きを実現しました。現場のニーズをよく知る愛知溶業、ハードウェアの専門家であるALPHA LASER JAPAN、そしてソフトウェア技術を持つデータ・デザインという3社の協力によって、これまで難しいとされていた3D自動溶接の実現に成功しました。

「ALJ ポストアドオンモジュール」の3つの特徴

この新しいモジュールには、主に以下の3つの特徴があります。

  1. 使い慣れたCAMソフトで3D溶接が可能に
    多くの製造現場で使われているCAMソフトウェア「WORK NC」のアドオンとして機能するため、新しい専用ソフトを覚える必要がありません。普段使い慣れた機械を操作するような感覚で、既存のCAM環境でデータを変換し、熟練工の技術に匹敵する高精度な溶接パスを自動で作ることができます。これにより、導入後すぐに3D形状の溶接を始められ、準備にかかる時間を大幅に減らせます。
  2. 複雑な3D形状に追従し、品質を「標準化」
    これまで自動化が難しかった曲面や不規則な凹凸がある複雑な形状に対しても、レーザーを当てる距離を自動で調整して追従します。これにより、作業者の熟練度によってばらつきがあった補修溶接の品質を均一にできます。手作業では難しい高精度な加工を安定して行えるようになります。
  3. 数値制御による「無人化」と「難加工材」への対応
    電圧など、溶接の品質に影響するすべての条件を数値でデジタル管理(DX化)することで、将来的には人がいなくても作業ができる「無人化」を目指します。また、手作業では難しい「ハードフェーシング(異なる材料を肉盛りして表面を硬くする技術)」や、半導体製造装置に使われるアルミ部品など、需要が増えている材料の加工にも対応できます。これにより、加工現場の技術力を大きく向上させます。

共同開発へのコメント

ALPHA LASER JAPAN株式会社の代表取締役である木元武一氏は、今回の共同開発について次のように述べています。

「人手不足は、日本のものづくりにとって最も大きな課題です。どんなに優れた溶接機があっても、それを操作する人がいなければ現場は動きません。長年私たちが直面してきたこの難しい課題を、データ・デザイン様のデジタル技術が解決してくれました。ハードウェアの性能を最大限に引き出すこの製品は、人手不足に悩む日本の製造現場の救世主になると確信しています。両社の技術を組み合わせることで、現場の未来を切り開いていきたいと考えています。」

ALPHA LASER JAPAN株式会社 代表取締役 木元武一氏

製品概要

製品名 ALJ ポストアドオンモジュール
販売開始日 2026年1月予定
価格 要お見積もり
対応設備 ALPHA LASER レーザー溶接機 (詳細はお問い合わせください)
必須環境 CAMソフトウェア「WORK NC」環境

ALPHA LASER JAPANのウェブサイトはこちらです。

今後の展望

この製品は、日本のものづくり現場の未来を大きく変える可能性を秘めています。

  • 「人による操作」から「無人化」へ
    まずは、この製品によって「熟練した技術のばらつきをなくす」ことから始めますが、最終的には「無人化」の実現を目指します。ALPHA LASER社の溶接機が持つ高い安定性と、このモジュールの自動制御を組み合わせることで、将来的に作業員がいなくてもロボットが自動で補修作業を行うシステムを構築する予定です。労働人口が減っていく日本において、少ない人数で最大の生産性を生み出す「次世代の持続可能な工場モデル」を提案していきます。

  • 半導体・エネルギー分野への展開
    金型補修で培った技術を応用し、異なる金属を接合して耐久性を高める「ハードフェーシング」技術の自動化を進めます。特に、需要が急増している半導体製造装置向けのアルミ部品や、発電所の蒸気タービンなどのエネルギー関連設備への対応を強化します。さらに、ALPHA LASERの強みである「高出力・長時間稼働」に加え、「自走式(キャタピラ)」や「ロングアーム」といった移動能力を活用し、これまで現場から持ち出すのが難しかった大型部品の「現地での自動溶接」を実現します。これにより、重工業分野におけるメンテナンスの課題解決に貢献します。

  • ハードウェアとソフトウェアの融合で「中小製造業のDX」を加速
    高度なロボット溶接を導入するには、これまで専門のシステムエンジニアによる複雑な設定が必要でした。これが多くの中小企業にとって導入の大きなハードルとなっていました。本製品は、ALPHA LASER製の溶接機とWORK NCの連携をメーカーが保証することで、高度なITスキルがなくても使える「実用的な自動化環境」を提供します。これにより、デジタル技術を扱える人材が不足している中小製造現場のDXを加速させ、日本のサプライチェーン全体の力を強くすることに貢献します。

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