国内初、水上・水中ドローン連携でブルーカーボン測定へ 神奈川県・UMIAILEと共同プロジェクト開始

水上・水中ドローン連携によるブルーカーボン測定手法の実証プロジェクトが開始

一般社団法人BlueArchと株式会社UMIAILEは、神奈川県および三和漁業協同組合城ケ島支所と協力し、水上ドローン(ASV)と水中ドローン(ROV/AUV)を連携させた新しい藻場観測手法の実証プロジェクトを始めました。

水上ドローン・水中ドローン 連携技術による ブルーカーボン測定手法の 実証プロジェクトを開始

このプロジェクトは、ブルーカーボンクレジットの申請に必要となる藻場の被度データを、船を使わずに陸上から遠隔で取得することを可能にする、国内初の試みです。2026年3月には城ケ島で磯焼け対策が行われている天然ワカメ場のモニタリングでこの技術を実証し、その結果を令和8年度のJブルーカーボンクレジット®申請に役立てる予定です。

プロジェクトの背景と目的

ワカメやカジメといった海藻が豊かに育つ藻場は、「海のゆりかご」とも呼ばれ、魚介類の産卵や成長に欠かせない場所です。近年では、大気中の二酸化炭素(CO₂)を吸収し蓄える「ブルーカーボン生態系」としても注目されています。

しかし、地球温暖化による海水温の上昇などの影響で、神奈川県内の藻場は1990年から2022年の間に約53.7%も減少していることが、神奈川県水産技術センターの調査で明らかになっています。

神奈川県沿岸における藻場の分布状況と変遷

このような藻場の減少を食い止めるための活動を支援する制度として、「Jブルークレジット®」というブルーカーボンクレジット認証制度があります。しかし、この制度を利用するためには、潜水士による手作業での測定が必要となるなど、手続きが複雑で費用もかかるため、広く普及するには課題がありました。

これまでBlueArchは、水中ドローンを活用した測定技術の開発を進め、ブルーカーボン測定の効率化に取り組んできました。しかし、従来の水中ドローンを使った方法でも、調査船が必要であり、高額な用船費や燃料費がかかるだけでなく、船の運航に伴うCO₂排出も環境への負担となっていました。

そこで今回のプロジェクトでは、株式会社UMIAILEが開発する水上ドローンを船の代わりに使い、水上ドローンと水中ドローンを連携させることで、藻場の撮影や観測を船舶なしで完結させる手法を実証します。これにより、特別な操船技術がなくても藻場の測定作業が可能になり、測定作業におけるCO2排出量をゼロにすることを目指します。

水中ドローン単体と水上ドローン・水中ドローン連携の比較

実証する技術的なアプローチ

今回の実証では、以下の3つの技術的なアプローチが試されます。

1. 調査可能エリアの拡大

従来の水中ドローンによる測定では、操縦信号や映像をケーブルで母船に送るため、調査できる範囲が母船から約100m以内と限られていました。今回の実証では、陸上と水上ドローンとの間で長距離無線通信を行い、水上ドローンを経由して水中ドローンを操縦することで、調査できる範囲を半径1km以上へと大きく広げます。

2. リアルタイムでの映像伝送と制御

水上ドローンを通信の中継地点として利用することで、水中ドローンが撮影した映像をリアルタイムで陸上へ送ることが可能になります。この際、低軌道衛星通信(LEO)、モバイル通信(LTE/5G)、直接無線など、複数の通信方法の中から最も適したものが検証されます。

水中映像のリアルタイム伝送と自律衝突回避

海上通信検証手法

3. 遠隔操作における自律回避機能

水中ドローンには、海底との距離を自動で感知し、衝突を避けるための自律制御プログラムが搭載されます。これにより、ドローンと操縦者の距離が離れても衝突のリスクを減らし、安定した遠隔観測を実現します。

実証体制と今後の流れ

このプロジェクトは、藻場保全活動に取り組む三和漁業協同組合城ヶ島支所の活動海域である三浦市・城ヶ島のワカメ場を実証の場として行われます。神奈川県水産技術センターによる技術評価を受けた後、Jブルークレジット®の申請が行われる予定です。

実証の具体的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 水上ドローン・水中ドローン連携に向けた開発(2025年12月〜2026年1月)
    通信規格や機体の重さなど、ソフトウェアとハードウェアの両面から具体的な内容を検討し、開発を進めます。
  2. 水上ドローン・水中ドローン連携の実地試験(2026年1月〜2月)
    ハードウェアの連携、映像の伝送、遠隔操縦などが実際の海で検証されます。
  3. 城ケ島ワカメ場の本調査(2026年3月)
    城ヶ島のワカメ場で測定が行われ、神奈川県水産技術センターが技術評価を実施します。
  4. 本実証で得られた調査データを活用したJブルークレジット®申請(2026年9月)

実証体制図

ブルーカーボンについて

ブルーカーボンとは、ワカメやアマモ、マングローブなどの海洋生態系が光合成によって吸収し、海底や深海に貯蓄する炭素のことです。ブルーカーボンは、森林などのグリーンカーボンに比べて二酸化炭素の貯蔵期間が長いため、気候変動対策として注目されています。また、ブルーカーボンを生み出す生態系は、海の生物の産卵場所としても機能するため、生物多様性の保護にも貢献しています。

ブルーカーボンクレジット認証について

ブルーカーボンクレジット認証は、海洋生態系が吸収・固定した二酸化炭素を「クレジット」として認証し、藻場再生を担う団体と脱炭素に貢献したい企業との間で取引を可能にする制度です。日本は、海藻・海草に関するブルーカーボンクレジット制度において、世界に先駆けて取り組みを進めています。

しかし、クレジットを作るための費用や手間が課題となり、多くの漁業組合や地域の保全活動を行う人々がこの制度を十分に活用できていないのが現状です。BlueArchは、テクノロジーとパートナーシップの力を活用することで、クレジット創出のハードルを下げ、制度の普及と現場での活用を促進することを目指しています。

参考情報

一般社団法人BlueArchについて

一般社団法人BlueArchは、「豊かな海を未来につなぐ架け橋となる(BlueArch)」という理念のもと、地域の漁業者や行政と協力し、水中ドローンやAI技術を使ったブルーカーボン生態系のモニタリングシステムの研究開発に取り組んでいます。また、開発したシステムを使ったブルーカーボン調査やブルーカーボンクレジットの創出支援などの事業も行っています。

  • 所在地:神奈川県横浜市中区元町4‐168 BIZcomfort元町ビルB1F

  • ウェブサイト:https://bluearch.or.jp/

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