AIVALIXと水みらい小諸、日本初のAIによる水道事業経営高度化を実現

水道事業の未来を拓くAI:経営業務の工数を約61%削減

AIVALIX株式会社と株式会社水みらい小諸は、日本の水道インフラ事業経営において、AIを活用した画期的な実証実験に成功したと発表しました。この実証では、AIVALIXが開発したAI基盤モデル「INFRAI(インフライ)」を用いることで、水道アセットマネジメント(AM)計画策定や経営戦略策定にかかる総工数を、業界の一般的な水準と比べて約61%も減らせることが確認されました。

INFRAIシステムのダッシュボード画面

この取り組みは、劣化診断、更新計画の作成、アセットマネジメント分析、そして経営戦略の策定といった一連の業務を、一つのAI基盤モデルでまとめて支援する国内初の事例として注目されています。

水道事業が抱える課題

日本の水道事業は、古い施設の増加、人口が減ることによる料金収入の減少、そして専門の技術職員が足りないという三つの大きな問題に直面しています。少ないお金と人で、「どの水道管や施設を優先して直すべきか」「どのような順番で投資を進めるべきか」を決めるのは、現場の担当者にとって大変な負担です。

これまでの判断は、ベテラン技術者の経験や、言葉では伝えにくい知識に頼ることが多く、誰が担当しても同じように判断できる客観性や、判断の理由をはっきりと示すことが難しいという課題がありました。また、AM計画書や経営戦略書を作る際にも、多くの書類の間で内容を合わせたり、様々な状況での財政シミュレーションをしたり、根拠となるデータを整理したりと、高度な専門知識と多くの時間が必要とされていました。

これまでのAI活用は、水漏れを見つけたり、施設の劣化を予測したりといった、個別の作業を良くすることに焦点が当てられてきました。しかし、現場で本当に必要とされているのは、劣化診断の結果から、更新計画や経営戦略の策定まで、一連の意思決定プロセス全体を支援する仕組みです。今回の実証は、このような難しい問題に対し、AIが計画や経営の判断にどれだけ役立つかを、実際の仕事の流れに沿って確かめることを目的として行われました。

実証実験の内容

長野県小諸市の水道事業を対象に、アセットマネジメントと経営戦略の策定業務において、INFRAIがどれくらい支援できるかを検証しました。具体的には、以下の業務をINFRAIが支援した場合の効果を、通常の業務と比べて数値で評価しています。

  • 水道管ごとの劣化リスクを評価し、更新が必要な管路を抽出し、優先順位を決めること

  • AM計画に関する様々な書類(施設の健康状態評価、更新の必要性、様々な状況での評価など)を自動で作ること

  • 複数の状況を想定した中長期的な財政の見通しをシミュレーションし、結果をまとめること

  • 経営戦略や基本方針の文章のたたき台を作ること、およびAM分析報告書をまとめること

この検証では、「劣化診断の結果を示すだけで終わらせない」ことを重視し、計画を立てたり、報告書を作ったり、説明したりといった、一連の意思決定プロセス全体でどれだけ時間を減らせるかを、実際の作業に基づいて数値で評価しました。

今回の実証で得られた成果

1. アセットマネジメント(AM)および経営戦略の策定業務の総工数を約61%削減

水道事業のAM計画策定と経営戦略策定にかかる時間を比較した結果、INFRAIを活用することで、約61%の工数を削減できることが分かりました。

INFRAI活用による工数削減効果のグラフ

工程ごとの削減効果は以下の通りです。

  • 現状把握・将来推計: 33.1人日から6.0人日へ(約79%削減)

  • 更新需要・財政検討: 47.8人日から18.2人日へ(約60%削減)

  • まとめ・照査・調整: 25.4人日から17.2人日へ(約32%削減)

この計算には、住民への説明や庁内での調整といった、人と人との話し合いが必要な工程も含まれています。AIがすべてを代わりに行うのではなく、人が引き続き担うべき役割があることを前提としています。

2. INFRAIによって必要な成果物を豊富に生成可能

INFRAIは以下の成果物を自動で作成できることが確認されました。これにより、これまでバラバラに作っていた書類を、一貫性を持ってまとめて作れるようになりつつあります。

  • AM計画関連書類(年齢別の資産状況、施設の健康状態評価、更新の必要性、様々な状況での評価など)

  • 更新計画(劣化リスクに基づいた更新候補の水道管の選定と優先順位付け)

  • 財政収支の見通し(複数の状況に基づいた中長期的な財政シミュレーション)

  • AM分析報告書(分析の根拠が自動で示され、説明しやすい分析のたたき台)

  • 経営戦略・基本方針の本文(様々な状況や根拠データと連動した文章のたたき台)

劣化診断や更新の必要性の計算だけでなく、計画書類や経営戦略の本文までを一貫して作れる点が、今回の実証の大きな進歩です。

3. 実証から得られた主な学び

  • INFRAIは、専門家がより大切な判断や、外部への説明業務に集中できる環境を作るための手段として役立つことが確認されました。

  • 削減効果は、決まった様式の書類を作るだけでなく、報告書をまとめたり、分析を整理したりといった、これまで「特定の人の知識や経験に頼りがち」だった業務にも及ぶことが分かりました。

  • 住民への説明や庁内での調整といった、人と人との話し合いが必要な業務は、引き続き人が行う必要があります。AIと人が役割を分担する業務の進め方が、実際に社会で使われるための鍵となります。

  • 個別の業務の効率化だけでなく、劣化診断からアセットマネジメント、経営戦略の策定までを一つのシステムでつなげられたことは、水道事業の意思決定プロセスそのものを大きく変えるきっかけになるでしょう。

今後の展望

INFRAIは、単なる業務効率化のツールではなく、水道事業の計画の仕組み、対象となる設備、そして産業領域のすべてにおいて、事業そのものを新しく設計し直すことを支援する基盤となることを目指しています。今回の実証で得られた知識をもとに、AIVALIXは以下の方向で開発と社会への導入を進めていきます。

  1. 計画全体への対応
    現在のAM計画や経営戦略の策定支援に加え、水道ビジョンなどのより長期で幅広い計画の策定にも対応を進めます。短期・中期・長期にわたる水道事業のあらゆる計画をまとめて支援することで、事業体が計画を立てる際の集合知としての役割を担うことを目指します。
  2. 対象設備の拡張
    現在の水道管が中心の範囲から、浄水場や配水場をはじめとする建物や設備を含む、すべての固定資産へと対象を広げていきます。これにより、水道事業を構成するすべてのアセットに対して、一貫した意思決定支援が可能となり、事業体の経営判断をより詳しく支援できる体制を築きます。
  3. 他のインフラ領域への展開
    水道事業で培った知識を活かし、上下水道、ガス、プラント、ビル、鉄道、道路、橋梁、通信といった、経営の意思決定に課題を抱える大切な産業領域へと展開を進めます。インフラの維持管理における意思決定の標準となるAI基盤モデルの構築を目指し、すでに複数の領域での取り組みが始まっています。

関係者からのコメント

AIVALIX 代表取締役社長 中山太洋氏

AIVALIX 代表取締役社長 中山太洋氏

今回の実証では、水みらい小諸と協力し、劣化リスクをただ見えるようにするだけでなく、AIによる分析結果を、実際の意思決定、更新計画、さらにはアセットマネジメント・経営戦略の策定にどのように結びつけられるかを、現場の作業の流れに沿って検証しました。その結果、業界の一般的な水準と比べて約61%の工数削減ができたことは、INFRAIが単なる効率化ツールではなく、水道事業の将来を支える「意思決定の土台」として、実際の業務に貢献できることを示す、非常に重要な一歩だと考えています。

水みらい小諸 代表取締役社長 東郷友裕氏

水みらい小諸 代表取締役社長 東郷友裕氏

水道事業を取り巻く状況は、施設の老朽化や財政の制約に加え、今後さらに進むであろう人員減少という大きな問題に直面しています。そのような中で、この技術は、劣化診断にとどまらず、診断結果を更新計画や経営判断に反映させるところまでを一体的に支援する点で、水道業界にとって非常に画期的な技術だと認識しています。

これまで現場では、データの準備や前処理に多くの時間を費やさざるを得ませんでしたが、この技術が導入・実証されることで、結果の適切さを詳しく調べたり、前提条件を変えた複数の状況を検討したりといった、経営判断に直接つながる大切な業務により多くの時間を充てることが可能になります。業務の効率化だけでなく、計画の内容そのものを充実させられる点は、大きな価値だと感じています。

水みらい小諸について

水みらい小諸は、長野県小諸市が35%、水ingAMが55%、第一環境が10%を出資して設立された、民間が中心となって運営する水道事業会社です。公共性(みんなの役に立つこと)と民間の知恵や工夫を両立させた新しい事業運営を通じて、技術者を育てながら、料金収入の減少や施設の老朽化といった水道事業の課題に対応し、地域における安定した水道事業の運営に貢献しています。

水みらい小諸 公式サイト:
https://www.mizumirai-komoro.com/

AIVALIX(アイヴァリックス)について

AIVALIXのロゴ

AIVALIXは、社会インフラの老朽化や熟練技術者の減少といった課題に取り組む、東京大学発のAIスタートアップ企業です。点検・維持管理・更新といったインフラメンテナンスの全プロセスを最適化・自動化するAIプラットフォームを開発し、現場の知識と最先端の技術を組み合わせることで、社会全体のしなやかさや強さを高める仕組みを提供しています。

AIVALIX公式サイト:
https://www.aivalix.co.jp/

お問い合わせ先

AIVALIXでは現在、INFRAIのさらなる精度向上と導入に向けて、インフラ設備に関するデータを提供いただける自治体や事業者の方々を広く募集しています。現場の知識とAI技術を掛け合わせ、持続可能で強い社会インフラの実現に向けた共創を目指しています。

AIVALIX株式会社 広報担当
Email:info@aivalix.co.jp
電話:080-1383-0702

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