「3D Gaussian Splatting」が日常を変える?手軽な3Dスキャンがもたらす未来の可能性
近年、3Dスキャン技術は大きく進化し、専門家ではない人々も気軽に3Dスキャンを始められる環境が整いつつあります。特に開発者の間で注目されているのが「3D Gaussian Splatting(3DGS)」という技術です。
この技術を使うと、現実の空間や物体を非常に高品質な状態で立体的にスキャンし、そのデータをバーチャル空間へアップロードして、デジタルツインやメタバースに活用できます。しかし、現状ではまだ専門的な技術であり、本格的な3Dスキャン機材が高価であるため、導入にはハードルがありました。
新型3Dスキャナー「PortalCam」が登場
そんな中、2024年9月にXGRIDS(エックスグリッド)社から新型3Dスキャナー「PortalCam」が登場しました。この製品は、3DGSを活用した3Dスキャンが可能であり、Basicモデルが税抜750,000円(1年間のソフトウェアライセンス料込み)からと、これまでの機材と比べて比較的安価な点が注目を集めています。

株式会社UPHASHは、この技術に関するインタビュー記事をMoguraVR NEWSに掲載しました。詳細はこちらから確認できます。
空間の“空気感”まで保存する技術「3D Gaussian Splatting」
「3D Gaussian Splatting」は、空間の中にどのような色がどれほどの距離にあるのかといった立体的な情報を記録する技術です。これにより、スキャンしたい空間全体を「空気感」を含めて保存できる点が大きな魅力です。
従来の3Dスキャン技術では、モノの質感や光の反射具合をフォトグラメトリ(複数の写真から3次元の形を復元する技術)で再現することが中心でした。しかし、この方法では、空間に漂うチリや揺らめく炎のような「空気感」を捉えることは困難でした。
「3D Gaussian Splatting」は、空間にあるものがどの角度からどう見えるのかまで保存できるため、そうした空気感も記録できます。また、他の技術で保存されたデータに比べてデータがとても軽量であるという利点もあります。高精細な3Dモデルを生成する「NeRF」のような近似技術もありますが、現状ではデータ処理が重いという課題があります。一方、3DGSはWebサイトにデータをアップロードして手軽に確認できるため、実用性が高いと言えます。

「3D Gaussian Splatting」の広がる活用シーン
この技術を活用した一般向けのカメラが登場したのはごく最近のことであり、活用アイデアは今後さらに広がっていくでしょう。しかし、「3次元空間の記録」を必要とする分野であれば、すでに広大な活用領域があります。
ビジネス領域での活用
建築、不動産、ゲーム、映画など、さまざまな分野で活用が期待されています。
- ハウジングの販売: 部屋の間取りや広さだけでなく、「この部屋に入るソファの大きさはどれくらいか」「ドアの高さは実際にどの程度か」といったリアルなスケール感を把握できます。従来の360度定点映像では難しかった、実際の長さや大きさを忠実に再現できる点が強みです。
一般ユーザーの日常での活用
機材の価格が手頃になってきたことで、一般ユーザーの需要も増えるでしょう。
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記録: 引っ越し前の家屋、楽しかった旅行先の施設、結婚式場や子どもの誕生の空間など、思い出の場所を「空気感ごと」記録できます。その場にいる人も、しばらく動かずにいればそのままコピーすることも可能です。
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介護施設: 高齢者の介護施設で、本人の思い出の場所を記録して見せることで、懐かしい記憶に触れる機会を提供し、心身の健康に良い影響を与える可能性があります。

AIとの相性と「現場に行かずに済む」価値
株式会社UPHASH代表取締役の今井翔太氏は、「3D Gaussian Splatting」がAIとの相性が非常に良いと考えています。既存の3DCG技術である点群やポリゴンは、データの重さやレイヤー情報の複雑さなど、処理に手間がかかる課題があります。しかし、3DGSで簡単に空間をキャプチャし、AIと組み合わせて新たな空間に変換するアプローチは非常に手軽です。最近では3D空間を出力するAIのプロンプトも登場しており、自分の作りたい空間をより簡単に作成できるようになっています。
また、「現場に行かずに済む」という点も大きな価値を持つでしょう。例えば、工事現場の点検では、定期的に現場を訪れて目視で確認する必要があります。しかし、今後はドローンやロボットで現場を3Dスキャンし、遠方から現地の変化をチェックできるようになるかもしれません。これは、職人や研究者など、現地に行く必要のある全ての人々の負担を大きく軽減し、日本の人口減少に伴う現場作業人員確保の難しさに対する解決策となる可能性を秘めています。
なぜ今、「3D Gaussian Splatting」に注目するのか
今井氏は、EPIC GAMESでフォートナイトやUnreal Engineの成長を見てきた経験を持つ3DCGの技術者です。常に「次にブレイクスルーを起こす技術」に興味を持ち、過去にはUnreal Engineの普及に貢献しました。そして2023年に発表された「3D Gaussian Splatting」の論文を読み、「きっと次のブレイクスルーを起こす技術はこれだ!」と確信し、事業の中心に据えたと言います。

現在のメタバース開発における最大の課題は、全てをポリゴンで作ることに莫大な予算がかかる点です。しかし、3Dスキャンで記録したデータをメタバースとして活用すれば、誰でも気軽に、そして安価に実現できます。このため、今後のメタバースは3Dスキャンを前提に考えるべきだと今井氏は感じています。「3D Gaussian Splatting」はPLY形式で保存でき、Unreal Engine、Unity、Blenderといった主要なエンジンに出力できる汎用性も大きな強みです。
手軽に使えるスキャナー「PortalCam」
今井氏が現在注目している3Dスキャナーが、XGRIDSの「PortalCam」です。これまで、手作業で3DGSスキャンをきれいに実行するには、高額な機材を組み合わせて長時間かけて空間全体を撮影する必要があり、金銭的にも体力的にも大変でした。そのような中で、「PortalCam」は「未来を作るデバイスだ」と今井氏は感じています。
XGRIDSは、3DGSの生成品質が非常に高く、ソフトウェアとプラットフォームの開発にも力を入れている唯一の企業であったため、今井氏は日本展開を担うエンドーサーとなりました。

「PortalCam」は、Basicの1年版が税抜750,000円と比較的安価です。4台のカメラと小型のLiDARスキャナを搭載し、重さは1kgを下回るため、片手で持つことができます。フロントの200度魚眼カメラで周囲の色を取得し、LiDARスキャナで距離を計測します。スマートフォンと連携し、アプリでスキャン機器を操作・管理できるため、スキャンの知識がなくても誰でも気軽に高品質なデータ取得が可能です。

スキャンしたデータを3D化する工程も、アプリで2ステップ程度で完了します。これまでの3Dスキャンでは、ロケーションハンティングやセット構築に数週間かかることもありましたが、「PortalCam」を使えばその作業時間を大幅に短縮できます。
「PortalCam」の適用範囲とデータの活用
「PortalCam」は、プロ用の大型機器のように橋やダム全体をスキャンするのには向かないかもしれませんが、公園やオフィスの一室といった小規模な空間であれば、比較的簡単にスキャンできます。AppleのiPhone Proシリーズに搭載されているLiDARでも3DGSは可能ですが、iPhoneのLiDARは焦点距離が短いため、「PortalCam」の解像度とスキャン範囲には及びません。「PortalCam」は、入門機とプロ用機器の中間くらいの立ち位置の製品と言えるでしょう。
旅行や出張先でも手軽に持ち運べるため、気になる物件や自動車などの商品の記録、観光スポットの撮影などにも活用できます。取得したデータはインターネットシェア機能に対応しており、XGRIDS提供のビューアーを使えばWebから簡単に閲覧できます。

メタバース領域での活用
スキャンしたデータは、XGRIDS社が提供する開発キット「Lixel CyberColor(LCC)SDK」を使うことで、UnityやUnreal Engineなどに出力し、リアルな3DGSモデルを統合したアプリケーションを開発できます。VRヘッドセットに直接コンテンツをストリーミングすることも可能です。自分が撮影した観光スポットの景色をVR空間で再現し、臨場感のある状態で体験するといった使い方もできるでしょう。

また、「LCC for BIM」を使えば、モデルに埋め込まれた高精度データを活用し、AIアルゴリズムによって自動モデリングが可能です。これにより、空間データを手作業で変換する作業時間を大幅に削減できます。「Version 1.9.1」からは、XGRIDSがスマートフロアプラン生成機能をLCCソフトウェアに直接統合しており、ボタン1つで2D/3Dのフロアプランを自動生成できるようになりました。
「3D Gaussian Splatting」が描く未来
人間が3次元空間に生きている以上、3Dが関わらない領域は少ないと言えるでしょう。取得したデータを他の技術と組み合わせて映像やゲーム制作に転用したり、芸術品や歴史的建造物の3Dデータ保存といった目的でも利用できます。「3D Gaussian Splatting」が普及すれば、多くの分野で作業が効率化され、新たなアイデアが生まれるでしょう。
人類はこれまで文章、絵画、写真、映像と様々な記録媒体を残してきましたが、いよいよ「空間そのもの」を記録できるようになりました。Meta社をはじめとする多くのテック企業がARやAIを活用したスマートグラスを発表しており、より気軽に空間を見られるデバイスの進化は今後も続くと予想されます。データが軽量化し、技術が当たり前のものとして普及し、AIと組み合わせることでさらに多様な表現が生み出される。このような進化の過程を見ると、未来は明るいと期待できます。
今後の展開
株式会社UPHASHは、以下の取り組みを進めていく予定です。
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PortalCamを活用した3DGS導入支援・教育プログラムの提供
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各業界への実証導入(ショールーム・展示・観光・文化財保全など)
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3Dデータ活用によるブラウザ体験最適化技術の研究
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Web3Dプラットフォーム「Reflct」などとの連携強化
株式会社UPHASHについて

株式会社UPHASHは、東京と九州を拠点に、3Dスキャン技術開発、4D Gaussian Splatting研究開発、空間インフラ・デジタルツイン構築、企業向け3D技術コンサルティング、画像認識技術開発などを手掛けています。
公式サイト:https://www.uphash.net/


