『インフラ運用支援/メンテナンスロボット白書2026年版』発刊、次世代インフラメンテナンスの未来を提示
『インフラ運用支援/メンテナンスロボット白書2026年版』が発刊
一般社団法人 次世代社会システム研究開発機構(INGS)は2025年11月28日、『インフラ運用支援/メンテナンスロボット白書2026年版』を発刊し、その内容を発表しました。
インフラメンテナンスにおけるロボット技術の重要性
日本社会は、インフラの老朽化と労働力不足という二つの大きな課題に直面しています。こうした状況に対し、ロボット、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった最新技術を組み合わせた「次世代インフラメンテナンス」が注目されています。この白書は、これらの技術がインフラの維持管理をどのように変えていくかを詳しく分析しています。
白書によると、インフラ点検ロボットの市場は成長を続けており、2023年の17億円から、2029年には45億円規模へと拡大する見込みです。2025年から2032年にかけては、年間平均8.2%の高い成長率が予測されています。

特に重要なのは、単に機械を使うだけでなく、データに基づいて将来の故障を予測し、事前に手入れをする「データ駆動型の予測メンテナンス」への変化です。AIによる異常検知、クラウドを使った遠隔監視、デジタルツイン(現実のインフラを仮想空間に再現する技術)の活用によって、点検にかかる費用を50%から80%削減し、設備が動かない時間を減らし、計画的な設備管理を実現できるといいます。
政府も、国土交通省が「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入検討会」を進めたり、AIセンター構想を打ち出したり、サービスロボットの安全基準(ISO 31101)を整備したりと、ロボット導入を後押しする環境が急速に整えられています。
ロボット技術の具体的な活用シーン
白書では、インフラの運用・点検現場でのロボット技術の具体的な活用例が紹介されています。
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橋梁・トンネル点検: ドローンやクローラロボットを使うことで、高所や危険な場所での作業がなくなり、打音検査(叩いて音で異常を判断する検査)の精度が上がり、作業時間を70%も短縮できます。
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水道・下水道管路検査: CCTV点検ロボットにAI画像解析を組み合わせることで、1kmもの管路で95%以上の高い確率で欠陥を見つけられます。時速60mで高速に検査できるため、都市の巨大なインフラ管理を効率化できます。
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送電線・鉄塔監視: LiDAR(光を使った計測技術)を搭載したドローンが自動で飛行し、送電線の外側の異常をミリメートル単位の精度で見つけます。5G通信を使うことで、遠くからでも遅延なく操作できます。
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発電所・プラント内部検査: 4Kカメラを搭載したクローラロボットが、配管やタンクの内部を自動で見て回ります。UT(超音波探傷検査)や渦流検査と組み合わせることで、肉厚の測定精度を0.1mm以下に高められます。
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データセンター空調・電源監視: 自律巡回ロボットとDCIM(データセンターインフラ管理)を組み合わせることで、PUE(電力使用効率)を改善し、設備のトラブルを早く見つけて停止時間をゼロにできます。
新しいビジネスモデルと社会の変化
ロボット技術の導入は、ビジネスモデルや社会のあり方にも変化をもたらしています。
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サブスク型ロボットサービス(RaaS/DaaS): ロボットを初期費用なしで月額利用できるサービスが広がり、中小企業でも導入しやすくなっています。投資した費用を12~18ヶ月で回収できるのが一般的です。
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スマートシティ統合運用: 複数のロボットやドローンをまとめて管理し、クラウドでデータを集め、システム同士をつなげることで、都市全体のインフラを効率的に管理する体制ができています。東京や大阪などの自治体で2025年から本格的に始まる予定です。
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災害対応・復旧業務: 国際基準に合った自律移動ロボットが、土砂崩れや火山、洪水などの現場で、人が危険な場所に立ち入ることなく遠隔で情報を集めます。これにより、人のリスクをなくし、復旧計画を早く立てられます。
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労働力不足の構造的解決: 建設・土木・保守作業の「3K業務」(きつい、汚い、危険)をロボットが代わりに行うことで、地方のインフラ企業での人手不足が解消され、会社の経営が安定するのに役立ちます。

白書が提案するアクションプラン
白書では、ロボット技術を効果的に導入するための具体的な計画が提案されています。
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デジタル基盤の先行整備: ロボットやドローンから集まる様々なデータを一元的に管理するクラウドデータ基盤を、導入の早い段階で準備することが重要です。これにより、単体のロボットだけでなく、システム全体で大きな効果が得られ、投資に見合う成果が3倍以上に改善されるでしょう。
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規格・標準の実務適用: ロボットの安全に関する国際規格(ISO 10218など)の最新版を導入設計に取り入れることで、共同作業やリスク評価、サイバーセキュリティの対策を進めます。また、国土交通省のAIセンター構想に沿って、点検データを集約し、AIの活用をさらに高度化することを支援します。
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段階的導入とリスク低減: 導入は、危険な場所や広範囲、夜間の作業など、特に効果が高い業務から始めるべきです。PoC(概念実証)を6~12ヶ月行い、現場からの意見を取り入れながら改善していくことが大切です。RaaS/DaaS型サービスを利用して初期費用を抑えつつデータを蓄積し、実績を見てから自社での本格導入を判断します。
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政策・金融との連携: 中小企業向けの省力化投資補助金や、サステナブル金融(環境・社会・企業統治に配慮した投資)の枠組みを活用することで、導入にかかる費用負担を軽くし、ESG投資の対象となることで資金調達を有利に進められるでしょう。
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人材育成と組織改革: ロボット操作、データ分析、運用保守の3つの分野で人材育成を進めることで、既存の従業員がより高度なスキルを身につけ、雇用を守りながら生産性を向上させます。現場からの改善提案を積極的に取り入れることで、労働環境の改善と同時に、新しい技術を生み出す力も高まります。
白書が役立つ人々
この白書は、インフラ、建設、エネルギー、交通運輸、通信などの大手企業の経営者、DX推進やスマートシティ関連の事業責任者、インフラ点検・メンテナンスの技術責任者、国土交通省や地方自治体の担当者、さらにはインフラテックやロボティクス関連の投資家まで、幅広い層に役立つ内容となっています。
白書を読むことで、市場の規模や成長の機会を具体的に把握し、最新の技術や標準化の知識を得て、導入や投資の判断を早めることができます。また、政策支援や補助金の活用方法、パートナー企業との連携機会についても理解を深めることができるでしょう。
詳細情報
この白書の詳細は、以下のリンクから参照できます。
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インフラ運用支援ロボット/メンテナンスロボット白書2026年版 PDF版
(※ PDF版はeメールまたはダウンロードでの入手も可能です。)
発行元について
監修・発行は一般社団法人 次世代社会システム研究開発機構が行っています。同団体は、二十数年にわたり、産業や先端技術、経済・経営、IT分野のシンクタンク活動を展開しており、その刊行物は国内外の政府系シンクタンク、主要研究所、大手企業などに納められ、高い評価を得ています。


