衛星通信と光回線で建設機械を遠隔操作!山間部での安定作業を実現

建設機械の遠隔操縦で山間部の工事を効率化

株式会社IIJエンジニアリングとハイテクインター株式会社は、国立研究開発法人 土木研究所の建設DX実験フィールドとIIJエンジニアリングの本社オフィス間で、建設機械(建機)を遠隔で操縦する実証実験を行いました。この実験では、衛星通信「Starlink」と2種類の光回線を組み合わせた、途切れない・遅れが少ないネットワークが使われました。山間部のように通信環境が整っていない場所でも、建機を遅れなく安定して遠隔操縦できることが確認されました。

背景:建設現場の課題と遠隔施工への期待

建設業界では、働く人が減っているため、少ない人数で作業を進めることが求められています。国土交通省が推進する「i-Construction2.0」では、建設現場を自動化・省力化する取り組みが進められており、遠隔で建機を操縦する技術に大きな注目が集まっています。

しかし、山間部などの工事現場では、インターネットなどの通信インフラが十分に整備されていないことがあります。また、遠隔操縦には、映像の遅れを最小限に抑え、たくさんのカメラ映像を効率よく送る技術が必要です。これらの課題を解決するため、今回の実証実験が行われました。

国土交通省:“i‐Construction 2.0 ~建設現場のオートメーション化~”

実証実験の概要

今回の実験は、茨城県つくば市の建設DX実験フィールドにある建機と、東京都千代田区のIIJエンジニアリング本社オフィスをネットワークでつなぎ、遠隔で建機を操縦するという内容でした。

建機には4台のハイビジョンカメラが取り付けられ、さらに現場全体を見るためのカメラ1台を加え、合計5台のカメラ映像を使いました。これらの映像は、メッシュWi-Fi、2台の「Starlink Mini」、そして2種類のフレッツ光回線を通してオフィスに送られました。オフィスからは、建機を動かすための信号やカメラを操作するデータが送られました。

実験では、ネットワークの回線が一時的に切れたり、再接続したりしても、映像が安定して遅れなく送られ、建機をスムーズに操縦できることが確認されました。

建設DX実験フィールドとIIJエンジニアリング本社間におけるシステム構成図

建設DX実験の様子:ショベルカーと遠隔操作を行うエンジニア

各社の主な役割は以下の通りです。

  • IIJエンジニアリング:建機の遠隔操縦に使う無線通信インフラの設計と運用を担当。

  • ハイテクインター:非常に遅れの少ない映像を送る装置や、建機遠隔操縦に使う無線通信・機器の実証を担当。

  • 土木研究所:自動施工技術の基盤(OPERA)を提供。

  • ジツタ中国:CT建機の遠隔操縦利用や技術の実証を担当。

実証実験を支える技術

1. 信頼性の高いネットワークの構築

遠隔操縦では、現場と操縦場所の両方で、安定して映像を送れるネットワークが必要です。今回の実証では、IIJエンジニアリングが、安価な衛星通信「Starlink Mini」2回線と、2種類の光回線(フレッツ/フレッツクロス)を組み合わせたネットワークを構築しました。これにより、もし回線の一部が使えなくなっても、別の回線でカバーできるため、常に安定した映像伝送が可能になりました。

2. 多数のカメラ映像を高品質に送る技術

1台の建機には約4台のカメラが搭載され、さらに現場全体を見るためのカメラも必要です。これらのたくさんの映像を、限られた通信の量(帯域)の中で効率よく送ることが課題となります。ハイテクインターは、この課題を解決するために「BAERTⓇ(Bandwidth Adaptive and Error Resilient video Transmission)」という技術を開発しました。BAERTⓇは、通信の状況に合わせて映像の送り方を最適化する技術と、通信エラーに強い技術からできています。これにより、どんな回線状況や映像の変化があっても、質の高い映像を安定して送ることができます。

BAERTによる帯域最適化映像伝送のグラフ

3. 非常に遅れの少ない映像伝送

遠くから建機を正確に操縦するためには、建機に取り付けたカメラの映像が、操縦席のモニターに届くまでの時間をできるだけ短くする必要があります。ハイテクインターが開発したハイビジョンビデオエンコーダー「LVRC-4000」を使うことで、映像データを圧縮したり元に戻したりする際の遅れをわずか50ミリ秒に抑えることができました。これにより、遠くからでも建機をスムーズかつ正確に操縦できます。

ジツタ中国:“2Kx4ch(4Kx1ch)低遅延映像伝送装置 LVRC-4000”

カメラからモニターへの超低遅延映像伝送システム図

今後の展開

今回の実証実験により、山間部のような通信が難しい場所でも、衛星通信装置を使って信頼性の高いネットワークと映像伝送環境を整えれば、建機を遅れなく安定して遠隔操縦できることが確認されました。今後は、さまざまな現場や遠隔操縦の状況でさらに実験を重ね、映像伝送の技術を改良し、知識を増やしていくことで、幅広いお客様の要望に応える建設DXの推進に貢献していく予定です。

この実証実験は、国土交通省のSBIR(Small Business Innovation Research)建設技術研究開発助成制度の委託を受けて行われました。また、実験の一部は、国立研究開発法人土木研究所、ハイテクインター株式会社、株式会社ジツタ中国、株式会社中電工との共同研究として実施されています。

国土交通省報道発表資料:「SBIR建設技術研究開発助成制度の採択課題の決定」

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