日立が「Physical AI」で制御ソフトウェア開発を効率化、自動車と物流の未来を拓く新技術を発表
日立は、機械などを思い通りに動かすための「制御工学」と、AI(人工知能)、そして「ソフトウェア工学」という3つの分野を融合した「Physical AI」という新しい技術の開発に成功しました。これは、AIの能力を現実世界の「もの」や「動き」と結びつけ、AIが実際に「見て」「動く」といった作業を行えるようにする技術です。
社会インフラの課題を解決する新技術
現代社会では、デジタル化や自動化が進むにつれて、私たちの生活を支えるシステムがますます複雑になっています。さまざまな機械や環境、仕事のやり方に対応するためには、現場ごとに異なる条件に柔軟に対応できる技術が求められています。また、AIや自動で動くシステムを導入する際には、現場の詳しい知識や機械独自の情報を正確にソフトウェアに反映させ、信頼できる自動化を実現することが大きな課題でした。
このような課題を解決するため、日立は現場の多様な状況に効率的に対応できる新しい技術の開発を進めてきました。
開発された技術の特長
日立が今回開発した技術は、特に自動車と物流の2つの分野で大きな効果を発揮します。
事例1:自動車分野でのAIテスト自動生成技術
日立とAstemo株式会社は、自動車のシステムに使われるソフトウェアのテストをAIで自動化する技術を開発しました。この技術は、自動車のコントローラ(制御装置)が持つ独自の「API情報」(異なるソフトウェア同士が情報をやり取りするための共通のルール)や、現場の詳しいノウハウをAI(大規模言語モデルと検索拡張生成を組み合わせたもの)に取り込みます。これにより、自然な言葉で書かれたテストの計画書から、現場の知識を反映したテスト手順書を自動で作り出すことができます。
この技術を使うことで、これまで多くの時間と手間がかかっていたテスト手順書の作成が効率化され、自動車の電子制御ユニット(ECU)の統合テストにかかる工数を43%も減らすことができました。このシステムは、現場ごとのハードウェア構成にも柔軟に対応できるため、信頼性の高いAI活用が可能になります。

この技術について、さらに詳しい情報はこちらで確認できます。
Acceleration of Automotive Software Development by Retrieval Augmented Integration Te
事例2:物流分野での自律ロボット制御ソフトウェアの再利用性向上技術
日立は、工場や物流センターで使われるロボットのために、新しい技術を開発しました。この技術では、現場で発生する製品の種類や環境、作業内容といったさまざまな変化の要素を事前に分析し、機能のモデルとして整理します。これにより、ソフトウェア上でこれらの変化を柔軟に管理できるようになります。
ロボットの制御ソフトウェアを小さな部品(モジュール)に分け、世界中で広く使われているロボット向けの共通ソフトウェア基盤である「ROS(Robot Operating System)」上で動くようにすることで、新しい商品が出たり、物を取る・置くといった作業の条件が変わったりしても、素早く対応できるようになります。これは、ソフトウェアを何度も使い回せるようにする技術です。現場のエンジニアやロボットを操作する人たちへの聞き取り調査や実験を通じて、システムの設定作業が効率的になったことが確認されています。
この技術について、さらに詳しい情報はこちらで確認できます。
Managing the variability of a logistics robotic system
今後の展望
今回開発された技術は、制御ソフトウェアの開発を効率化し、現場で働く人たちの負担を減らすことで、持続可能な社会インフラの実現に貢献します。現場での対応力を高めたり、人手不足を補ったりすることは、働く人が減っている現代社会や、多様なニーズに応えるためにも役立つでしょう。日立はこれからも、制御工学とAI、ソフトウェア工学を組み合わせた「Physical AI」の技術を、自動車や物流の分野だけでなく、さまざまな社会インフラに広げていき、社会の課題を解決し、新しい価値を生み出すことに貢献していくとしています。
国際会議ASE 2025で発表
今回発表された2つの研究成果は、ソフトウェア工学の分野で非常に有名な国際会議「ASE 2025」に同時採択されました。ASE 2025は、ソフトウェアの開発や設計を自動化する技術や研究について、世界中の研究者や技術者が発表し、話し合うための権威ある学術会議です。
ASE 2025の公式サイトはこちらです。
40th IEEE/ACM International Conference on Automated Software Engineering (ASE 2025)
日立のウェブサイトはこちらです。
株式会社日立製作所
この技術に関するお問い合わせは、日立製作所 研究開発グループの問い合わせフォームから可能です。
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