国内初、水上ドローン・水中ドローン連携技術によるブルーカーボン測定手法の実証プロジェクトが神奈川県・UMIAILEと開始
水上・水中ドローン連携でブルーカーボン測定を効率化、藻場保全と脱炭素を推進
一般社団法人BlueArchと株式会社UMIAILEは、神奈川県および三和漁業協同組合 城ケ島支所と協力し、国内で初めてとなる「水上ドローン・水中ドローン連携技術によるブルーカーボン測定手法」の実証プロジェクトを開始しました。
このプロジェクトは、船を使わずに陸上から遠隔で藻場(もば)を観測する新しい方法を開発するものです。これにより、ブルーカーボンクレジットの申請に必要な藻場のデータを効率的に集め、藻場を保全する活動と脱炭素社会の実現に貢献することを目指しています。

プロジェクトの背景と目的
ワカメやカジメなどの海藻が育つ藻場は、魚介類にとって大切な産卵場所や成長場所であり、「海のゆりかご」とも呼ばれています。近年では、空気中の二酸化炭素(CO₂)を吸収し蓄える「ブルーカーボン生態系」としても注目されています。
しかし、地球温暖化による海水温の上昇などの影響で、神奈川県内の藻場は1990年から2022年の間に約53.7%も減少していると、神奈川県水産技術センターの調査で明らかになっています。

このような藻場の減少を防ぐための取り組みとして、「Jブルークレジット®」という制度があります。これは、海洋生態系が吸収・貯留したCO₂をクレジットとして認証し、藻場を再生する団体と、脱炭素に貢献したい企業が取引できるようにするものです。しかし、このクレジットを申請するには、潜水士による手作業での測定が必要になるなど、手間がかかるため、制度の普及が進んでいないという課題があります。
これまでにも、水中ドローンを使った測定技術の開発や画像解析AIの活用など、ブルーカーボン測定を効率化する取り組みが進められてきました。しかし、水中ドローンを使う場合でも、調査船が必要となり、数十万円から数百万円の費用と、船の運航によるCO₂排出という環境負荷がかかることが問題でした。
そこで今回のプロジェクトでは、UMIAILE社が開発する水上ドローンを船の代わりとなる中継点として使い、水上ドローン(ASV)と水中ドローン(ROV/AUV)を連携させて、藻場の撮影や観測を完結させる手法を実証します。これにより、船を操る技術がない人でも藻場の測定作業ができるようになり、測定作業でのCO₂排出量をゼロにすることが可能になります。

実証する技術的なアプローチ
今回の実証では、以下の3つの技術的なアプローチに取り組みます。
1. 調査可能エリアの大幅な拡大
従来の水中ドローンを使った測定では、操縦信号や映像をケーブルで船に送るため、調査できる範囲が船から約100m以内に限られていました。今回の実証では、陸上と水上ドローンの間で長距離の無線通信を行うことで、水上ドローンを経由して水中ドローンを操縦し、調査できる範囲を半径1km以上に大幅に広げます。
2. リアルタイムでの映像伝送と制御
水上ドローンを中継点として使うことで、水中ドローンが撮影した映像をリアルタイムで陸上へ送れるようになります。この際、低軌道衛星通信(LEO)、モバイル通信(LTE/5G)、直接無線など、複数の通信方法の中から最適なものを検証していきます。


3. 遠隔操作における自律回避機能の搭載
水中ドローンには、海底との距離を自動で検知し、衝突を避けるための自律制御プログラムが搭載されます。これにより、ドローンと操縦者の距離が離れても衝突のリスクをカバーし、遠隔操作でも安定した観測が可能になります。
実証体制と今後の流れ
本プロジェクトは、藻場保全活動に取り組む三和漁業協同組合城ヶ島支所の活動海域である三浦市・城ヶ島のワカメ場を実証フィールドとします。神奈川県水産技術センターが技術評価を行い、その後、Jブルークレジット®の申請を目指します。

実証プロジェクトの主な流れは以下の通りです。
- 水上ドローン・水中ドローン連携に向けた開発(2025年12月〜2026年1月)
通信規格や重量など、ソフトウェアとハードウェアの両面で具体的な内容を検討し開発を進めます。 - 水上ドローン・水中ドローン連携の実地試験(2026年1月〜2月)
ハードウェアの連携、映像伝送、遠隔操縦などを実際の海で検証します。 - 城ケ島ワカメ場の本調査(2026年3月)
城ヶ島のワカメ場で測定を行い、神奈川県水産技術センターが技術評価を実施します。 - 本実証で得られた調査データを活用したJブルークレジット®申請(2026年9月)
ブルーカーボンについて
ブルーカーボンとは、ワカメやアマモ、マングローブなどの海洋生態系の光合成によって吸収され、その後海底や深海に貯蓄される炭素のことです。ブルーカーボンは、森林などのグリーンカーボンに比べてCO₂の貯蔵期間が長いため、気候変動対策の観点から注目されています。また、ブルーカーボンを生み出す生態系は、海の生物の産卵場所としての機能も果たすため、生物多様性の保護にも貢献しています。
ブルーカーボンクレジット認証について
ブルーカーボンクレジット認証は、海洋生態系が吸収・固定した二酸化炭素を「クレジット」として認証し、藻場再生を担う団体と脱炭素に貢献したい企業が取引できるようにする制度です。
海藻・海草に関するブルーカーボンクレジット制度は、日本が世界に先駆けて取り組みを進めており、欧米主導のルールを後追いしがちな脱炭素分野の中で珍しいリーダーシップを発揮している分野です。
一方で、クレジットを創出するための費用や手間が障壁となり、多くの漁業組合や地域の保全活動を行う人々がこの制度を活用できていないのが現状です。日本が持つ豊富なブルーカーボンの可能性を引き出すため、BlueArchは技術と協力関係の力を活用し、クレジット創出のハードルを下げて、制度の普及と現場での活用を促進することを目指しています。
一般社団法人BlueArch概要
「豊かな海を未来につなぐ架け橋となる(BlueArch)」を理念に、地域の漁業者や行政と連携し、水中ドローンやAI技術を活用したブルーカーボン生態系のモニタリングシステムの研究開発に取り組んでいます。また、開発したシステムを用いたブルーカーボン調査・ブルーカーボンクレジットの創出支援などの事業を行っています。
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所在地:神奈川県横浜市中区元町4‐168 BIZcomfort元町ビルB1F


