Helm.ai、わずか1,000時間の走行データで自動運転の新しい道を切り開く

自動運転の「データの壁」を突破

自動運転技術の進化は目覚ましいものがありますが、その開発には膨大な量の走行データが必要とされてきました。この「データの壁」が、業界全体の進歩を遅らせる大きな要因となっていました。しかし、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転向けAIソフトウェアの開発をリードするHelm.aiは、この課題を解決する新しいAIフレームワーク「Factored Embodied AI」を発表しました。

自動運転デモの様子

少ないデータで複雑な道を自動走行

これまでの自動運転業界では、車が運転の物理法則をゼロから学ぶために、非常に大量のデータ(ペタバイト級)を必要とするAIモデルの開発が主流でした。しかし、Helm.aiは異なるアプローチを採用しました。

同社は、カメラ映像のみを使ってAIドライバーがカリフォルニア州トーランスの複雑な市街地を「ゼロショット」(一度も走行したことがない道路)で自動走行するデモンストレーションを公開しました。このAIドライバーは、車線維持、車線変更、市街地の交差点での右左折を、人間の介入なしで20分間連続して成功させました。

デモンストレーションの様子はこちらの動画で見ることができます:
www.helm.ai/zeroshot-autonomous-steering

この自動ハンドル操作機能は、シミュレーションとわずか1,000時間の実走行データを使ってAIを学習させることで実現されました。これは、従来のAIモデルが必要とするデータ量に比べて、はるかに少ない量です。

「Factored Embodied AI」の仕組み

Helm.aiのCEOであるVladislav Voroninski氏は、「モデルの性能が上がるにつれて、さらに性能を改善するために必要なデータは非常に希少になり、収集コストも高くなっています」と述べています。Helm.aiは、運転のタスクを細かく分解することで、この「データの壁」を乗り越えようとしています。

同社の「Geometric Reasoning Engine(幾何学的推論エンジン)」は、まず世界のきれいな3D構造を抽出します。これにより、車両の意思決定ロジックをシミュレーション内で効率的に学習させることが可能になります。

この新しいアーキテクチャには、以下の主な技術的進歩があります。

  • シミュレーターのギャップを埋める: 従来のモデルは、シミュレーションでの学習結果を実際の環境に適用することが難しいという課題がありました。Helm.aiのアーキテクチャは、グラフィックスではなく、幾何学と論理に焦点を当てた「意味空間」で学習します。これにより、無限のシミュレーションデータで学習した内容を、すぐに実際の環境で機能させることができます。

  • 1,000時間のベンチマーク: この幾何学的シミュレーションを活用することで、わずか1,000時間の実走行データで、都市部での強力なゼロショット自動ハンドル操作が可能になりました。これは、完全自動運転への効率的な道筋を示しています。

  • 行動モデリング: 加速、減速、そして複雑な交通状況に対応するため、Helm.aiのシステムは、歩行者や他の車の動きを予測し、密集した交通状況でも安全に運転できるようにします。

  • ユニバーサルな認識能力: この技術は、道路だけでなく、あらゆるロボット環境に適応できることを証明しています。例えば、露天掘り鉱山(Open-Pit Mine)に導入された際には、走行可能な路面と障害物を正確に特定しました。

自動車メーカーにとってのメリット

この新しいアーキテクチャは、自動車メーカーに大きな戦略的優位性をもたらします。競合他社が大規模な車両群からトレーニングデータを集めているのに対し、Helm.aiのアプローチでは、自動車メーカーは既存の開発用車両を使って、ADASからレベル4の自動運転機能までを導入できます。これにより、自動運転開発における莫大なデータ収集の必要がなくなり、参入のハードルが低くなります。

Voroninski氏は、「私たちは、力ずくでデータを集める時代から、『データ効率』の時代へと移行しています。ロサンゼルスの高速道路であろうと、鉱山の運搬路であろうと、幾何学の法則は変わりません。当社のアーキテクチャは、この普遍的な幾何学を一度解決することで、あらゆる場所での自動運転の導入を可能にします」と語っています。

Helm.aiについて

Helm.aiは、L2/L3 ADAS(先進運転支援システム)、L4自動運転、およびロボット工学の自動化向けAIソフトウェアを開発している企業です。2016年に設立され、独自の「Deep Teaching™」と生成AI技術を活用し、実際の車に搭載できるフルスタックの運転ソフトウェアやシミュレーションツールを提供しています。同社は、世界中の自動車メーカーと協力し、量産プログラムに取り組んでいます。

詳細については、Helm.aiのウェブサイトをご覧ください:
https://helm.ai

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